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東京高等裁判所 昭和52年(ネ)749号 判決

控訴人・原告 山下一郎 外一〇七名

訴訟代理人 大蔵敏彦 外一名

被控訴人・被告 静岡県

訴訟代理人 堀家嘉郎 外一名

主文

一  本件各控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人らは、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人らに対し、それぞれ、本判決添付別紙第二請求債権目録の請求金額欄記載の各金員、並びに同目録の未払賃金額欄記載の各金員に対する昭和四八年一一月二二日から右各支払済までの年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を、被控訴人は、「控訴棄却」の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、次のとおり訂正、附加するほか原判決の事実欄に記載されているとおりであるから、これをここに引用する。

(訂正)

原判決二丁裏三行目の「別紙第一」を「本判決(控訴審判決)添付の別紙第一」と、同八、九行目の「別紙第二」及び同三丁表二行目の「別紙第二」をいずれも「本判決(控訴審判決)添付の別紙第二」と各訂正する。

原判決九丁表三行目の「何らの理由もない。」の次に、「控訴人らの本件年休権の行使が組織的、計画的に行われたとしても、当然にこれを一斉休暇闘争議行為であるとして年休の成立が否定されるべきでない。本件割休闘争における年休権の行使は、所属事業場の業務の運営を阻害する目的でなされたものではないことは前記のとおりであるとともに、現実に右阻害を生ぜしめるものではなく、時季変更権を無視し、その実態において客観的にこれと衝突するものではなかつたのであり、本件年休が成立していることは明らかである。」を挿入する。

原判決添付の別紙第一原告目録及び同別紙第二請求債権目録(原判決二二丁から同三三丁まで)を削除する。

原判決添付の別紙第六の一覧表(原判決三九丁から四九丁まで)のうち、番号9、14、40、50、51、52、53、56、58、63、64、65、66、69、70、71、83、98、124、126、127、の各欄を削除する。

原判決四〇丁一三欄の「山田周一」を「森島周一」と、同四四丁七四欄の「伊村秀一」を「伊村秀市」と、同四五丁八〇欄の「青嶌十一」を「清水十一」と、各訂正する。

(当審における証拠関係)〈省略〉

理由

本件につき更に審究した結果、当裁判所も控訴人らの本訴各請求をいずれも棄却すべきものと判断する。その理由は、左記のとおり訂正、附加するほか原判決の理由と同じであり、当審において新たに提出された証拠を参酌しても原審の認定、説示は左右されないので、右の原判決の理由をここに引用する。

一  原判決一一丁表一行目の「同袴田実」の次に「、原審証人小沢寅男、同杉山郷太郎、同石田利行」を、同行目の「各証言」の次に「及び本件弁論の全趣旨」を、それぞれ挿入する。

二  同一一丁裏八行目の「このようにして」から同一二丁表二行目の「たのである。」までを、「このようにして、その頃県職は、県の本庁及び出先機関のすべての事業所に勤務する組合員が各事業所毎に一割の割合において右の七日間連日にわたり年休の時季指定をするように計画、指令し、職場討議を経たうえ、予め特定の組合員を指名して県職執行委員長名の指令書(乙第二二号証)を交付し、県の全ての事業所につきそこに勤務する組合員の各一割に相当する者をして年休の時季指定をさせる本件割休闘争の実施の体勢を固めた。」と訂正する。

三  同一二丁表七行目の「予め一定の組合員を指定し」を「県の各事業所に一定の割合により予め組合員を指定し」と訂正し、同一三丁表四行目の「であり、県当局」から同五行目の「支持したから」までを削除し、同丁表七行目の「本件割休闘争の期間中」を「本件割休闘争は実施されて、その期間中」と訂正する。

四  同丁裏七行目の「からである。」の次に「右一四四名のうち、控訴人ら一二九名が本件訴訟を提起したが(尤も、そのうち二一名が当審において控訴を取下げた)、控訴人らはいずれも前記のとおり各自に対する県職の指令に基き本件割休闘争に参加し、本件年休の時季指定に及んだものである。そして、控訴人らが年休の時季指定の届出をした日時及びその指定にかかる年次休暇の時季は別紙第六の一覧表(ただし同表のうち、番号9、14、40、50、51、52、53、56、58、63、64、65、66、69、70、71、83、98、124、126、127、の各欄を除く。)のとおりであつて、右の届出のほとんどが年休の時季に極めて近接した時期にされており、右届出の際各職場の上司から年休とは認め難い旨を告げられたが、控訴人らは届出のとおり出勤しなかつたものである。」を挿入する。

五  同一四丁表二行目の「6 県当局」から同九行目の「処分にした。」までを削除する。

六  同一五丁表四行目の「2 しかしながら」から同二〇丁裏七行目の「いわなければならない。」までを次のとおり訂正する。

「2 しかしながら、労働者の就労しないことが年休の時季指定の形式によるものであつても、それが労働組合の主張を推進する目的で、その統制のもとに組合員の全員又は一部により一斉に行われ、使用者において時季変更権を行使する余地がなく、業務の正常な運営を阻害するものであつて、その実質が同盟罷業に外ならないと認められるときは、年休は成立せず、労働者は右の不就労の日又は時間について賃金請求権を有しないと解するのが相当である。

四 (本件賃金カツトの効力について)

1  本件についてこれをみるに、前記一、二の事実からすると、控訴人らの本件年休の時季指定は、賃金確定についての県職の主張を有利に推進する目的で県職によつてその戦術の一つとして計画、指令された本件割休闘争に基く、組織的、計画的な集団行為であることが明らかであり(本件割休闘争の目的の中に年休消化促進ということが含まれていることは前記のとおりであるが、このことは右判断の妨げとはならない)、しかも、右の時季指定は県職の各控訴人に対する個別的な指令、指名に基きなされたものであることは前記のとおりであつて、これらの点からみれば、控訴人らは右時季指定に当り、時季変更権の行使に従う意思を有しなかつたことは当時明らかであつたのであり、各事業場において使用者側が時季変更権を行使する余地はなかつたものと認めるに充分である。

2  他面、各事業場において、一定割合の所属職員が、一斉に、かつ一方的に、その職場から離れることは、県の活動全体からみて、その業務の正常な運営を阻害するものであることは明らかであり、その程度に大小があるに過ぎない。そしてこのことは、本件割休闘争による年休時季指定者が各事業場につきそこに所属する組合員の一割に過ぎないことを考慮しても変りはない。

3  右のとおり、控訴人らの本件年休の時季指定は、それ自体が前記の目的を貫徹するためになされた集団行為であつて時季変更権と相容れないものであり、かつ、この時季指定に基づく一定割合の職員の職場離脱は被控訴人の業務の正常な運営を阻害する行為に当るというべきであり、これらの諸点に鑑みると、本件年休の時季指定による控訴人らの職場離脱は、その実質において、年休権行使に名を藉りた部分的同盟罷業というべきである。従つて、控訴人らの本件年休の時季指定によつては年休は成立しなかつたものであり、本件請求にかかる賃金請求権は発生せず、本件賃金カツトに違法のかどはない。」

以上の次第で、控訴人らの本訴各請求は理由がなく、結論においてこれと同趣旨の原判決は結局相当であつて本件各控訴は理由がなく棄却を免れない。

よつて、訴訟費用の負担につき民訴法第九三条第一項本文、第九五条、第八九条に従い主文のとおり判決する。

(裁判長判事 外山四郎 判事 海老塚和衛 判事 鬼頭季郎)

別紙第一、第二〈省略〉

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